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最高裁判所第三小法廷 昭和58年(行ツ)119号 判決 1984年6月19日

東京都豊島区雑司が谷一丁目五〇番六号

上告人

赤羽淳一郎

右訴訟代理人弁護士

岩井重一

土屋耕太郎

東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号

被上告人

豊島税務署長 新谷實

右指定代理人

亀谷和男

右当事者間の東京高等裁判所昭和五七年(行コ)第四七号贈与税決定処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五八年八月三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩井重一、同土屋耕太郎の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治)

(昭和五八年(行ツ)第一一九号 上告人 赤羽淳一郎)

上告代理人岩井重一、同土屋耕太郎の上告理由

第一、原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。

一、原判決は本件土地が訴外亡修司から控訴人に贈与された旨認定し、控訴人の本件控訴を棄却した。

しかしながら、右認定は以下に詳述する如く明らかに事実に反し、違法であると言わざるを得ない。

二、(1) すなわち、原判決は右認定の理由として「道子は、この間の折衝、右契約書等の書面の作成及び登記手続等に全く関与せず、本件土地所有権を取得した旨の認識はもとより、同土地につき自己所有名義の登記が経由されたことの認識さえも有していなかった」旨断じている。

(2) しかし、本件土地に関する折衝、契約書等の書面の作成は右道子より委任を受け代理人である訴外志鷹啓一弁護士が終始行っていたものであり、訴外亡修司の意向が反映され、甲第六号証の契約書が作成されたものである。したがって、道子がそれら行為に直接関与せずとも代理人が法律行為を行えばその効果が本人に帰属するものであり、原判決の如く「関与せず」ともそれによって修司から道子への贈与が否定される理由とは全くならないものと解する。

(3) また、道子において原判決が摘示するような「本件土地につき自己所有名義の登記が経由されたことの認識さえも有していなかった」旨の事実認定は全く真実に反するものである。このことは別件における道子の本人尋問調書(乙第二六号証の六丁一二桁目以下にて所有権移転登記を認識していた旨の供述がある)から明らかである。

(4) 前記甲第六号証の契約書によれば「修司は道子に対し本件土地を贈与し、その引渡しを為し、道子はその贈与を受け、その引渡しを受けた」旨記載があり、且つ「修司は道子に対し贈与を原因とする所有権移転登記手続を為す」旨記述されている。

右文書は右修司及び同人代理人(訴外増岡由弘弁護士)と上告人及び右道子の代理人である志鷹弁護士との度重なる接渉の結果作成されたものであり、「修司から道子」への贈与は疑うべきもない事実である。

ところで、原判決の指摘のように道子の夫である上告人が本件土地の帰属をめぐって積極的に動いたことは事実であり、又被上告人からの甲第八号証の如き「贈与税の申告についてのご案内(道子宛)」の書面の送付があった後、被上告人の処へ赴き、本件土地が上告人への慰謝料として認められる余地があれば節税上大変助かる旨要請した(甲第九号証)ことも事実であるが、このような行動は上告人が修司及び東洋工缶株式会社を相手どって家事調停申立をした(乙第二号証)ことの延長線であると共に上告人及び道子夫婦の家庭にとってその当時税金問題が大きな問題点として浮び上がっていたことから被上告人への右要請となり、被上告人からの指導を得て「真正な登記名義の回復登記手続」を行ったものである。

したがって、上告人においては何がなんでも本件土地は自己に帰属するものであるとの認識は全くなく、「慰謝料」を原因とする本件土地の取得が認められるのであればそのような形態を被上告人において認容して欲しいという願望があったものである。

最初から本件土地の取得が慰謝料としてでなく対価のない贈与である旨認定されるのであれば、上告人が甲第六号証にあえて逆らって真正な登記名義の回復登記手続によって自己の所有名義にする必要は全くなかったものである。

上告人の右登記手続を為す大前提としては、被上告人の係官が本件土地の取得の原因が慰謝料である旨認定する為には右登記手続を経なければならない旨の指導があったからであり、万が一右係官において右登記手続を経ても慰謝料と認定するか否かは未定である旨明言していれば上告人において敢えて登記費用の負担をしてまで右登記手続を経ることはなかったものである。

(5) つぎに、原判決は控訴の棄却の理由として「本件回復登記手続につき、控訴人が道子に対してその承諾を求めた事実はなく、道子は本件土地(二)の売却や、売却代金の受領及びその管理運用等にも全く関与していない」旨の事実を認定している。

しかしながら、本件回復登記手続については道子の供述によると『(夫が)自分が慰謝料でもらったということで税務署のほうでそうしなければいけないと言ったと、そのように本人(夫)からは聞きました』(乙第二六号証七丁五桁目乃至八桁目)ということであり、この点で道子の承諾がなかったと速断することは大きな誤りであると解される。

また、本件土地の売却手続及び管理運用については真正な登起名義の回復登記手続後であり、上告人の名義になった後の経緯であるので、上告人の主張からいっても道子が関与しないことは何ら不思議ではない。道子においても本件土地が自己の平和な家庭の維持に資するものであれば、その運用が夫である上告人の手に全面的に委ねられても異議はないものと考えていたことは事実である。

したがって、前記の原判決摘示の事実をもって修司から道子への贈与が否定される根拠には全くならないものと思料する。

三、本件土地の帰属の問題を解するにあたっての最大のポイントは修司の意思如何であるが、同人の遺言公正証書(乙第一一号証)からいっても「本件土地の道子への贈与」を明確に謳っている以上これを否定することは全くあり得べからざることであり、しかも修司と生活を一にしていた訴外赤羽啓司が右遺言公正証書の作成に事実上関与していたこともあり、原審でも「父親は腹を立てていたので淳一郎にやるのはいやだ」旨証言していることからも右修司は「本件土地を道子に贈与する」意思であったと解することがごく自然であり、合理的である。

四、以上詳述したことから明らかなように本来本件土地は修司から道子へ贈与を原因として所有権の移転が為されたものと解すべきところ、誤って上告人への所有権移転があった旨認定したことは本件課税処分の適否いを判断するに際し、重大な影響を与えるものであり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるので破棄を免れないものである。

以上

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